ダーク桃太郎(1)

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おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。

「なんだい、これは」。目を丸くしたおばあさん。ズボンをまくって川へと入り、バシャバシャと水をかき分け、桃へと近づきます。

おっと、うっかり。

おばあさんは国境を越えてしまいました。

この川の真ん中が国と国とを分かつ境目であります。

国からの脱走を試みることは罪でありました。

物陰から見ていた国境警備隊は、おばあさんを取り押さえます。

「あ、アタシャ、ただ、桃を…」。慌てて弁解するおばあさん。

警備隊の隊員の一人は言いました。

「聞いたことがあるぜ。あの桃からは桃太郎が出てくるんだ」

なんと、日本の童話に精通した隊員。

桃をぶった切ったのは、隊員のサバイバルナイフ。

しかし桃の中から出てきたのは、なんと、おじいさんでありました。

「おじいさん!」

おばあさんの叫び声がおじいさんの耳に届くことはありません。

山で柴刈りをしていたはずのおじいさんは、桃の中ですでに息絶えておりました。

よくある脱走未遂事件は、突如として殺人・死体遺棄事件にその姿を変えたのでありました。

連行されたおばあさんは留置場へと拘置されることとなったのです。

小さな村に立ち上がった特別捜査本部。

刑事部長が黒いセルシオに乗り、現場に乗り付けます。

たくわえた口ひげを撫で、低い声でうなる部長。

脱走未遂ならワイロを包めばもみ消すこともできるが、殺人とあってはそうもいかないのでありました。

捜査は暗礁に乗り上げます。

被疑者の絞り込みに難航した捜査本部は、おばあさんに自白を迫ります。

おばあさんに動機と呼べるものがないことは分かっていた捜査本部。

それでも「解決」を急いたのでありました。

「お前がやったんだろ」

苛烈な取り調べはすでに21日目を迎えておりました。

部屋に差し込んだ一筋の太陽に、おばあさんの歯が不気味に光ります。

なんと、おばあさんは不敵な笑みを浮かべておるではありませんか。

「この日を待っておったのよ」。

おばあさんの瞳が真っ赤に染まり、取調室の壁に映ったおばあさんの影は鬼の形相へと変貌していました。

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この記事を書いた人

トイプードルと暮らしています。日常の思い出をつづります。

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