川を訪れた。
古里の川を。

幼いころから魚を追いかけた、関東随一の清流である。
いつ来ても美しい場所だ。

犬も一緒。
前回ここを訪れたのは3月の終わり、いや4月の頭だった。その頃はちょうどソメイヨシノが花を咲かせ始めたころだった。
およそ半年ぶり。
川辺の木々はすっかり緑に満ちている。

しかし、今の私には、生命力にあふれる川辺の風景が皮肉に思えてならない。
前回、訪れた4月上旬は、母も生きていたし、伯父も生きていた。
今は2人ともいない。
この美しい清流に、残酷な時の流れを重ね合わせねばならない、運命の残酷さを思う。

古里とは何だろう。
何がここを古里たらしめるのか。
それは親の存在ではないのか。
だとすれば、親のいないこの土地は、もはや古里ではないようにも思える。

この場所も色づき、枯れていく。
季節がめぐることさえ、受け入れがたい。
流れゆく清き水は、時の流れそのもので、美しいのに儚く切ない。
「はー」
深いため息をつく。
思えば、古里でありながら、行く場所がない。
車のドアを力なく閉め、その場をあとにした。
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