初めて整髪料を買ったのは、おそらく中1の時だ。
年でいうと2004年。
UNOかGATSBYのヘアワックスを、マツキヨあたりで買ったはずだ。
当時はドラマ「ごくせん」などの影響もあり、不良ファッションが流行し、みんな髪を逆立てていた。
分かりやすく言えば、スーパーサイヤ人のようなヘアスタイルがはやりだった。
◇
髪の後ろの「襟足」と呼ばれる部分を伸ばすのが定番だった。
その伸ばした襟足を金や茶に染める者もいた。
私も憧れ、髪を逆立て、襟足を伸ばした。
襟足は直毛でスーっと伸びているのがかっこいいのに、私はクネクネのくせっ毛だったので、縮毛矯正をかけた。
同じ塾の女子から「縮毛矯正やったの?」と聞かれた私は、「ああ、まあね」などと淡白な返事をした。本当は気づいてもらって嬉しかったくせに。
ヘアセットには何分も時間をかけた。一度作り上げた髪型が気に入らなければ、また水で髪を流して、一からセットをやり直した。
◇
ある日、クラスメイトが見慣れぬワックスを持っていた。「アリミノ」というメーカーのものだった。
サロン専売品だというではないか。
整髪料にも「格」というものがもたらされるようになった。
その後は、「俺はナカノ」というやつもいれば、女性用のヴィダルサスーンのワックスを使うことで個性を出すやつもいた。
私自身もあれこれ試し、大して分かりもしないのに、「〇〇のクレイワックスがいい感じだな」などと通ぶったことを言ってみたりした。
あの頃は髪型というのは大きな個性であり、一日に機嫌を左右するものでさえあった。整髪料に詳しい雰囲気を醸し出し、ちょっとおしゃれな自分を演出してみたりした。
◇
時は巡り、私は34歳。おじさんである。
このところ、整髪料が面倒で仕方がない。
ヘアワックスを去年買った記憶はあるので、ギリギリ去年は整髪料でセットをしていたはずだ。しかし今年に入ってからは、数えるほどしか整髪料を使った記憶がない。
出かける前に寝ぐせだけ直し、「髪がおかしくない状態」であれば外に出てしまう。
かっこよさは追求しない。
心底、髪型というものがどうでもいい。
大体、ワックスというものはベタベタするし、頭をヘッドレストに置くのも躊躇する。整髪料とは、使うと肩がこるような疲労感を伴うものなのだ。
◇
もはや髪型に無頓着だから、ボサボサに伸びてから、床屋に行く。
美容室ではない。オッサンの理容師がやっている「床屋」。
「きょうはどのような髪型に?」
…………。
私は、言葉に詰まる。
別にやりたい髪型などない。前回どう言って切ってもらったのかも忘れた。
「前髪が邪魔なので、あげる感じで」とテキトーなオーダーをして理容師を困らせ、カットが終わるのを待つ。
三面鏡を持った理容師が「いかがですか」と後頭部の仕上がりの確認を求めてくるが、それもめんどくさい。
大して見もせず「あ~、いい感じです!」と言って、確認を終える。
◇
100人が見たら100人が「普通」あるいは「ダサい」と言うであろう、なんの変哲もない頭のおじさんが床屋から帰宅。
床屋でつけられたワックスをシャワーで洗い流す。「あー、さっぱりした」。やっぱり、もう整髪料は好かん。
ゴロゴロゴロゴロ。
整髪料をつけなければ、昼間っから布団でゴロゴロできる。
はー、快適快適。
「こうして若者はオッサン化していくものなのだな」と自分の容貌の衰えを一般化し、ぐうぐうと惰眠をむさぼるのであった。
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