民度。あまり積極的に使いたい言葉ではない。
しかし、私の今住んでいるマンションは、住民の民度が高いとは必ずしも言えない。
築30年超のオンボロ物件とあって、正直なところ、経済的に恵まれた人はあまりいない。
はっきり言えば、その日暮らしの貧乏人が多い。そんなイメージだ。
上品だったお母さんが、こんな場違いなところに住んでいたなんて、と今さらながらに思いを馳せる。
(以前も書いたが、私は亡くなったお母さんが住んでいたマンションに移り住んだのだ。母は離婚調停を機に家を出て、このマンションに住んでいた)
◇
しかし、立地は気に入っている。
地方都市の中心部に位置し、ベランダからは近くを流れる川が見える。
この川は透明度が高く、川底の水生植物まで見える。
車で3分も走れば、ファミレスもユニクロもマックもある。5分走ればスタバもある。
利便性と自然の美しさを兼ね備えた立地。こればかりは、金をかけたからといって手に入るものではない。
そう思えば、このマンションのこの部屋に、価値を感じないこともない。
◇
しかし、ベランダでタバコを吸う者がいたかと思えば、でかい声で通話する声も聞こえる。
どこからか異国情緒漂う料理の匂いが届き、共用部の廊下には吸い殻が落ち、その吸い殻の横では虫が死んでいる。
なんともカオス。地方都市の中心部に捨て置かれた廃墟で暮らしているような心持ちである。
自室の玄関ドアを開ければ、キィィィィと高い音をたて、バタァァァンと閉まる。重厚感のあるシャーメゾンのドアがなんだか恋しい。
◇
お母さんが暮らした最後の場所を守りたい気持ち。どこかまっさらな場所に逃げたい気持ち。
相反する気持ちが同居している。
お母さんが寝室として使っていた部屋には「お母さんの匂い」が残っていた。でも最近、その匂いが消えてきている。
寂しい。
この匂いが全部なくなった時がここを去るタイミングなのだろうか。
でも、どこへ?
なんだか、居場所のない人生になっちゃったな。いろんな意味で。
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