「容疑者=悪」を疑え 東京科学大の学生を巡る報道の問題点

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口にしたくもないのだが、批判せずにはいられないので、ブログに書くことにした。

先日、東京科学大の女子学生が逮捕されたニュースをFNN、日テレ、TBSが報じた。しかし、この報道には極めて重大な問題があるので、順を追って批判していく。

目次

テレビは「容疑者=悪」という誤解を広めている

まず、日本においては「逮捕された人=悪い人」という誤解が広く国民の間に染みわたっている。しかしこれは不適切な理解である。

有罪判決が確定するまでは無罪と推定される、つまり無罪として扱われるのが近代刑事司法の大原則である。

では、なぜ「逮捕=悪」という誤解が広く国民に拡散しているかといえば、マスメディアの責任である。新聞社や通信社の責任も大きいが、テレビが受けるべき非難の大きさはその比ではない。

重大犯罪でもない容疑者の顔を撮影し、大々的に報じるのはテレビ局の報道部門で続いてきた悪しき慣習であり、人権侵害である。

新聞ではベタ記事にもならない些末な事件で、警察署に張り込みカメラを構え、全国に放送する。これは報道に足る公共性、公益性を全く満たしていない。

東京科学大の学生を顔出しで報じたのは大問題である

今回、女子学生はホテルにおいて、ほかの男女らと薬物を所持した疑いがあるとして逮捕された。

しかし、くどいようだが、あくまでも疑いである。

呼ばれていった場所にたまたま薬物があっただけかもしれないし、あるいは騙されて連れてこられた被害者かもしれない。

また、「ホテル」という場所の特性上、性被害に遭った可能性も否定はできないのである。

一般論として、性被害に遭った可能性のある人を扱う場合には、報道する側には極めて慎重な取り扱いが求められる。

それにもかかわらず、「ホテル」「男女」「薬物」といったワードに飛びつき、スキャンダラスに報じて数字を稼いだFNN、日テレ、TBSには報道者としての矜持がない。

捜査機関が逮捕した事実によって、性被害に遭った可能性のある人物を保護する必要性が薄れることにはまったくならないのである。

テレビによる人権軽視の報道によって、「パパ活」「売春」「ジャンキー」といった下劣な憶測が広まってしまった。

もし、今後、この女子学生があらゆる意味で被害者的な位置づけにある人物だったと判明したら、FNN、日テレ、TBSはどう責任を取るつもりなのか。

そういった吟味もせず、撮影・放送をしたことのだろうが、今回の件は極めて重大な判断ミスである。いや、そうした「判断」そのものが欠如していたともいえる。

こうした報道を直接規制する法律はない

残念ながら、こうした報道を規制する法律はない。

表現の自由、報道の自由に直結するテーマであるため、規制する法律を作ることが極めて難しいのだ。

だからこそ、マスメディアが自浄作用を発揮して、よりよい報道に努める必要があるのだが、このテレビの低質な報道は一向に改まる気配がない。

事件の性質を吟味することもなく、逮捕された人物が拘留されている警察署に出向き、送検の瞬間を狙って敷地の外から撮影するばかりである。これは「同業他社だけに撮られたら困る」という内向きで陰湿な競争意識に基づくものでもあり、まったく擁護の余地がない。

本来、報道とは捜査機関などの権力を監視することが責務だ。しかし実際には、捜査機関の作り上げた構図に無批判に乗っかり、事件の内容や性質を吟味することもなく、手錠と腰縄をつけられた容疑者にカメラを向けている。これが人権侵害でないなら何なのか。

自浄作用が効かないなら、もはや国民の総意として規制する法律の整備を目指さねばならない時期に来ているのではないか。

カメラを向けることが許容される事件のラインはどこか

とはいえ、一切いかなる事件においても、容疑者の撮影を認めないのかといえば、それは現実的ではないだろう。

たとえば、地下鉄サリン事件のような重大事件において、オウム幹部を撮影しない判断はあり得なかったはずだ。実際、オウム幹部を撮影することには、公益性・公共性が十分にある。

カメラを向けることが許容される一線を設ける必要がある。

極めて難しい判断だが、一つの案としては、裁判員裁判の対象事件になりうるものの一部に限定するという手はあるだろう。つまり殺人や強盗致死傷などの重大犯罪である。薬物事件でも、営利目的での密輸や製造を行った場合などは対象になりうるだろう。

逆にいえば、これまでのように、窃盗や傷害など比較的軽い事案において面白おかしく撮影・放送することは認めないということである。

こうした「一線」は法律で規定することは困難なため、業界団体などで線引きを議論すべきだ。

また、撮影・放送した事件が不起訴あるいは無罪となった場合には、容疑者・被告人の名誉回復に各社全力を挙げることも重要である。

まとめ

・マスメディア、特にテレビは「容疑者=悪」という構図で報道し、誤解を広く拡散し続けている

・今回の東京科学大の報道では、女子学生が被害者である可能性を吟味しておらず、極めて重大な問題だ

・容疑者の顔を撮影するのは、裁判員裁判の対象事件などに限定すべきで、撮影・放送後に不起訴・無罪となった場合には名誉回復に全力を注ぐべきだ

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この記事を書いた人

トイプードルと暮らしています。日常の思い出をつづります。

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