不倫と名誉棄損を考える

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Twitterを見ていたら、「不倫と名誉棄損」が話題になっていた。

要約すると、夫に不倫をされたという女性が夫の不倫相手とされる女性の個人情報をSNSに載せ、名誉を棄損したとして逮捕されたらしいという案件。

私は法律家でもないし、不倫の当事者でもない。そもそも婚姻歴さえないのだから、不倫に巻き込まれようもないのだが。いろんな意味で素人なのだけど、ちょっと色々考えを巡らせてみた。

目次

SNSに”夫の不倫相手”の情報を載せること

まず、相手の実名や顔を晒したうえで、一方的な主張を展開するのは少なくとも倫理的には問題がある。

その主張には勘違いや誇張、意図的なミスリードが含まれている可能性があり、それらをまるで客観的事実であるかのように流布することは適切でない。SNSでの炎上は「欠席裁判」のようなもので、炎上させられた人の言い分は十分に吟味されない。

しかし、刑事責任を問えるかどうかには疑問符もつく。第三者の実名と顔画像をSNSにアップしたとしても、それ自体は現状の法律では犯罪にはならないはずだ。

論点は、その実名・顔写真を晒したうえで「不倫した」という事実を記した場合に、それが名誉棄損になるかどうかだと考える。

「不倫した」は名誉棄損になるのか

当然、理論上は名誉棄損になるのだが、しかし一歩立ち止まって考えたい。刑事事件として立件すべき事案であろうか。

極端な話だが、理論上は「バカ」と言っただけでも侮辱罪になるし、軽く肩を押しただけでも暴行罪になるが、そんなことでは普通は逮捕も起訴もされない。つまり理論と実務は別物である。

今回のケースであれば、捜査機関が身柄を拘束するに値するような「名誉棄損」だったのか、という点を考察する必要がある。

ところで、民事事件の原告が記者会見などで自身の主張を述べることは往々にしてあることだが、その内容が名誉棄損にあたるとして逮捕されるケースはあまりない。通常、会見は県庁などの記者クラブ内で行われ、新聞・テレビの報道が「公益性」の名のもとに厚く守られていることによる部分が大きいと推察する。(提訴会見を受けて、名誉棄損として相手方が民事で訴えたケースはあったと記憶している)

つまりこれまで刑事実務上は、提訴会見の内容を以て逮捕にまで踏み切ることはほぼなかったはずだ。当然、起訴に至った事案もほぼゼロに近いと推察する。

そこで生まれる疑問は、「会見で発表すること」と「SNSで発表すること」に本質的な差異があるかどうかだ。

一般的に弁護士が同席することの多い会見と、一個人によるSNS投稿を一律に同等とは言いきれないが、「不倫していた女性を提訴しました」の範囲を超えない投稿であれば、刑事責任は回避されるべきといえないだろうか。

今回の投稿、警察の対応をどう評価するか

テレビ山口の報道によると

警察では、「投稿内容が悪質で逮捕の必要性があったため逮捕した」としています。

SNSに面識のある女性(20代)の名誉を傷つける内容・画像を投稿か 30代の女を逮捕 | tysニュース | tysテレビ山口 (1ページ) (tbs.co.jp)

とのことだ。

ここから読み取れるのは2点。

一つ目は、名誉棄損の疑いがあったとしても、投稿内容の悪質性が低い場合には逮捕には踏み切らないということを警察自ら示唆しているということである。今回は「投稿内容が悪質で逮捕の必要性があった」と明言しており、通常は名誉棄損容疑で逮捕に踏み切ることは決して多くないということさえ伺える説明である。

二つ目は、投稿が悪質だったと指摘しているが、どの記述が逮捕の必要性を生じさせるほど悪質性が高かったのかは不明瞭であるということだ。

そこで、逮捕された女性の投稿を、問題ない範囲で引用する。

不倫相手とされる女性の顔写真と名前を記したうえで

>不倫反省なし

>合意書も何度も守らない

>その件で連絡しても着信拒否

と非難している。

何度も言うが、こうした投稿は倫理的には問題がある。感情としては理解するが、一方的な言い分をこのような形でSNSに投稿するのは不適切だ。

しかし一方で、逮捕の必要性が生じるほど際立って悪質性が高い表現とは言えないのではないか、というのが私の評価である。

提訴会見で訴状の柱を説明するのに相当する程度の投稿といえるのではないか。

おまけ

外国の事情はよく知らないが、少なくとも日本では「逮捕された=悪いやつ」という認識が国民に広く定着している。

実際には逮捕されるか、任意捜査で書類送検されるかには明確な差はない。しかし、逮捕されると仕事や私生活に大きな影響が出るばかりでなく、実名で広く報道されてしまう。実に理不尽な仕組みだ。

これには背景があり、警察は逮捕事案に関しては警察記者クラブに「報道メモ」の名で、被疑者の住所や実名、逮捕事実などを提供しているのである。

推定無罪の原則を破壊する元凶だが、改まる気配はない。現実、この国では逮捕そのものが一種の刑罰化しているのだ。

だからこそ、逮捕という手続きには否応なく特別な重みが生じ、その妥当性は常に国民によって検証され続けなければならない。

私は、今回の名誉棄損事案における逮捕は妥当性を欠くものを考え、それを支持しない。

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この記事を書いた人

八王子でトイプードルと暮らしています。日常の思い出をつづります。

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