多摩川で全裸の男に遭遇した話

今日はなんだか寝る気にもならないので、たわいのない話で2本目のブログを書こうと思います。

あれはもう3年近く前。2021年の春でございました。

私は東京・多摩市の聖蹟桜が丘駅から徒歩約5分の古いアパートに住んでいました。

築30年のワンルーム。お世辞にも居心地のいい住まいではなかったのですが、歩いてすぐ多摩川に面した公園に出られるのがお気に入りでした。

聖蹟桜ヶ丘というのは、とても夕日がきれいな街なんです。

都会の川はコンクリートで固められていて風情に欠ける面もあるのだけど、幅の広い川の水面に夕日が反射する時間帯だけは、田舎にはない情緒があったりもする。

だから僕は18時前後になると、川に面した公園にふらふらと出て行って、じーっと風景を眺める日々を送っておったのさ。

そんな平和な日々に突然現れたのは露出狂。

薄暮と呼ぶにふさわしい昼と夜のはざま、目の前を全裸の男が通り抜けていくではありませんか。

外で目にするはずのない「肌色の物体」。するすると真横を通り抜けていく光景は、まるで日本にいるはずのない大蛇に遭遇したかのようでありました。

ハッと我に返り振り向くとその男は裸の背中に律儀にリュックを背負っておりました。

そのリュックには、脱いだ服をしまいこんでいるに違いありません。モコリと膨らんだリュックサックからは、警官が来ようものならすぐに服を着ようという確かなリスクヘッジを感じました。

そこまでの危機管理能力を駆使してまで全裸になろうとする男の執念。危険人物である。

私は一度自宅に戻り、110番をしたのであります。

駆け付けた警官に現場を案内する私。「さっきはここにいました!」と高らかに情報を伝達。模範的市民といえよう!

しかしその警官、あろうことか、私に「全裸男」のふるまいを再現するよう求め、その再現シーンを撮影までしているではないか。

模範的市民がなぜあの全裸男を演じねばならぬのか。理不尽である。

私の怒りと屈辱をよそに、その警官は調書のようなものをとりながら、「この季節、ちんぽ出しが多いんですよ。あったかくなると増えるんですよ」とのたまった。

その日もすでに数件、同様の案件をこなして、この現場に臨場したらしい。

なんということだろうか。

私は膝から崩れ落ちる思いであった。

そんなにも露出狂が多いのかということではなく、日がな一日、露出狂の対応をしている人間がいることへの同情である。

かつては、刑事や白バイ隊員に憧れたであろうその中年警官は一日を通じて露出狂の対応をしているのである。

悲劇的業務といえよう。

警官は、私に同情されているなどとはつゆ知らず、ペンを握り書類とにらめっこしている。いじらしい姿である。

私の怒りの炎は、悲劇の涙に打ち消され、すっかりその警官を許していた。

そして一連の対応が終わるころには、辺りはすっかり暗くなっていた。

太陽が完全に沈んでも寒さを感じない。深呼吸をすると春の匂いがした。

「あったかくなると増えるんですよ」

警官の言葉が脳内でリフレインした。

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