10年ほど前、大分県に住んでいた。
縁もゆかりもない街に、転勤でやってきたのである。
県庁からほど近いマンション。15階の部屋を借りた。北向きの部屋は日当たりが悪かったが、眼下に広がる街の向こうに別府湾を見ることができた。
穏やかな瀬戸内海である。

休みの日は、窓枠に切り取られた海を眺めた。
夕暮れの時間帯になると、海の向こうの空が赤く染まる。
故郷にはない風景だった。
見とれている間に、手前の街は黒いインクを1滴ずつ垂らしていくように、闇に変わっていく。
民家や集合住宅に明かりが灯る。一つ、また一つ。
増えていく明かりが、寂しかった。
知らない街で見る人の営みは、いつも私の心を揺らす。なぜだろう。つながりを持たない街で、自分とは無縁の「団欒」を見せられるせいだろうか。
でも、どこか情緒を感じる心地よい寂寥感だった。
私のマンションは比較的高層であるわりに、エレベーターが1基しかなかった。降りるにも上がるにも、ずいぶんと待たされた。
だから外出が億劫だったが、なんとか休日の重たい体を起こし、コンビニで夜ご飯を買った。
帰宅すると、わずか10分ほどの間にすっかり日が暮れて、空は真っ暗になっていた。
もう海も見えない。
情緒と心地よさの消え去った心細さにテレビをつけて、うまくもないコンビニ弁当をほおばった。
そして眠りに落ちて、気だるい朝を迎えると、私はまた外を見た。
海が見える。
太陽がキラキラと照らす海は、これから始まる一日の長さを思わせて、憂鬱だった。
船が行く。
フーーーーー。
深いため息をついてから、窓に背を向けた。
そして、玄関のドアを開けた。
おわり


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